天使の分け前

和の香りは一味ではなく、常温、間接熱、直に焼べた時と異なる香り立ちをします。
木香(もっこう)という生薬は、お香界の二重人格と言われ常温では、古く湿った家屋の匂い、温めると焼きたてのパンの香ばしい匂いになります。

生薬としての歴史は古く、正倉院薬物にも名前を残し、当時の最高の妙薬、紫雪は木香が主成分です。
最近では、脳の血流を高める認知症の治療薬としても注目を浴びています。個人的には木香が大好きですが、調合香としての出番は少なくて、冬場だけ木香風呂として甘く華やかな香りを楽しんでいます。 


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三年ほど前のこと、お香の体験教室の参加者の見目麗しき女性が、木香の匂いを使い、ワイン蔵の香りの匂い袋を作りました。 湿った古い木の香りの木香から、大好きなワイン蔵の香りを連想したとのことでした。 私は、その香りがとても気に入って、彼女のレシピを聞いて、自宅で作りました。
でも、本物のワイン蔵の香りが、どのようなものかよく分からずに時すぎて・・・
いつか、匂い体験してみたいと思っていました。 そんな念願が叶って、

牛久のシャトーカミヤのワイン蔵を訪ねました。
まさしく、そこは木香の、一番よい部分の甘く香ばしく華やかな香りが漂っていて、心が震えました。 



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世界のコニャック市場の20%をしめるヘネシー社の熟成倉庫は、意外なほどひんやりとした冷気を感じることができ、それは、樽を通して揮発する天使の分け前(エンジェルズシェアー)と呼ばれるアルコールの気化熱によるものだそうです。 誰がいいだしたのか、その表現に惹かれます。
シャトーカミヤの一階に並んだ樽の通路では、木香の香りがぷんぷんでしたが、地下の暗い倉庫では、木香の甘い香りを感じることはできませんでした。 
そこは窓が開け放されているというのに、外界と断絶されているような空間としか思えず、ひっそりとした時の香りが漂って、ビロードのような黒黴の気配に圧倒されました。


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ヘネシー社の工場では、80年、200年ものが貯蔵されている酒蔵では、冷気もアルコールの香りもしないのだそうです。 熟成がすすみアルコール分子が束縛されて気化しにくくなっているのが原因だそうです。 
匂いの違いの科学的な詳細はわかりませんが、時間経過が織りなす絶妙な匂いの変化に心身の隅々迄酔うような不思議な体験でした。


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ワイン蔵の香りを作った見目麗しい女性は、お香司さんになって、今でもその時の匂い袋を下げています。 
次に彼女に会う時には、エンジェルズシェアーの香りを匂い袋に仕立てて持って行こうと思います。
匂いの記憶や好感について語る時、とらえどころがないだけに、共感できると笑みがこぼれます。


それこそがエンジェルズシェアー 


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